オリジナル小説【推理・ミステリー】

鴉の眼 四


 これは依羅が時折使う方法で、一度相手に警戒心を与え、すぐにそれを解く。そうする事によって、依羅は前以上に、相手に親しみ感を与えてしまうんだ。

 

 この時の効果も覿面(てきめん)で、彼女はさっきまでの緊張を解いて、先程の声より幾分聞き取りやすい声で話しだした。

 

「私、小林枝美子といいます。四年前に結婚して、今あなたが言ったように三歳になる息子がいます。ほんと、じっとしていない子で、手をやかされています」

 

 微笑んだ彼女はそこで言葉を切り、口に手をあてた。言葉を続けようとするが、涙が溢れて、声を出すのは難しいようだった。

 

「さあ、もう一口飲んで下さい。気付かれましたか? この紅茶はアールグレイという紅茶で、イギリスの知り合いから直に仕入れているものです。――ね、美味しいでしょう? 涙が出そうなら、泣いたって構いません。叫びたくなったなら、そうしても構わないのです。友也、札をCLOSEDに替えてきてくれ。……さあこれで、邪魔者が入って来る事もない。ですからいいですか、あなたは今話さなければならないのです。それがどんなに辛く、思い出したくない事でも。その為に、あなたは此処に来たのですから」

 

 依羅の言葉に、彼女の目からポトリと涙が零れ落ちた。一度出てしまった涙は止まる事なく、次から次へと出てくるのだった。

 

 彼女から目を逸らし、まっすぐと前を向いた依羅は、それ以上口を開かず、ただじっと彼女が話しだすのを待っていた。

 

「……すみません。実は、息子が突然消えてしまったんです。――まるで、神隠しにでもあったように」